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メアリー・アン・マシューズは言った: 眠れない夜に。僕は言った: 眠れない夜には色々と思い出すよ。死んでしまった同級生のことを思い出す。彼女の心にのしかかっていたものは何だったのか。僕が今日まで死なずにやってこれて、彼女がその日に死んでしまっ…

メアリー・アン・マシューズは言った: 僕は言った: 悲劇だな、と思う。どうして僕はこうなのかな、と思う。欠落しているのは確かなことだしもうずっとそれに付きまとわれてきた気がするけれど、存外、それを悪くないなと思っているのも確かなことだ。手首を…

メアリー・アン・マシューズは言った: 僕は言った: 少しもどうにもならなかった。届き得たんじゃないかと思ったりもしたけれど、どうにもうまくいかないね。これはいよいよ、覚悟を決めなきゃいけないような心境にもなっている。君の待つ部屋に行かないで済…

メアリー・アン・マシューズは言った: 燃え尽きる、だなんて、火が点いてもいないのに。僕は言った: 振り返ってみれば誰にだって、そういう感覚はあるはずさ。振り返ることのできる立場にあるからこそ、当時を半ば揶揄するように、燃え尽きた、なんて言うの…

メアリー・アン・マシューズは言った: どうして誰にも心を開けないのかしら。僕は言った: くだらないことだとはわかっているはずなのに、誰もが僕のことを見透かしている、という考え方をやめることができない。どんなに信頼のできるはずの人たちと過ごして…

メアリー・アン・マシューズは言った: あなたが言いたかったこと。僕は言った: 僕が最後に言いたかったのは、まさか僕がそんなこと、と君は思うかも知れないけれど。君が頭を悩ませて胸を痛めていたように、僕も同じように、頭を悩ませて胸を痛めていたとい…

メアリー・アン・マシューズは言った: そんなものに中てられるなんて。僕は言った: 滑稽だろう、僕は。友人が幸せになったからといって、自分が幸せになれるなんて限らない。義務も権利もないのさ、そんなものは。彼女が夢を見たからといって、僕も夢を見ら…

メアリー・アン・マシューズは言った: いつまでこんな暗い部屋にいるつもりかしら。僕は言った: 切れ掛かった蛍光灯が一本だけ、僕と君を照らしている。この部屋はまるで警察署の取調室のように思えるけれど、光の届き切らない四隅は湿ったような暗闇が積も…

メアリー・アン・マシューズは言った: 少しは変われたのかしら。僕は言った: そうともメアリー、僕は幸せになれた気がする。僕は、少しだけ変われた気がする。誰もが願うような幸せを願って、自分より先約のあることを悔しがって、馬鹿みたいに口を開けて次…

メアリー・アン・マシューズは言った: あなたは逃げたのよ。自分と彼女を結ぶ接点を全て消して。僕は言った: 誰かを恨むなんてくだらないこと。そんなことに労力と時間を費やすなんて無駄だよ。僕は彼女のことを恨んでなんかいない。僕は僕のために明日から…

メアリー・アン・マシューズは言った: サインを逃さないで。僕は言った: どんなに表向きを飾り立てたって、本質的な部分はどうすることもできない。どんなに知ったふうなことを言ったって、本当の自分がどれだけ救われたがってるか気付いてしまえばそれまで…

メアリー・アン・マシューズは言った: それは大切にしておいた方がいいわ。あなたが選択できる数少ない衝動行為で、あなたに与えられた数少ない才能のうちのひとつなのだもの。僕は言った: ずっとここでやってきて、ひとつだって文字にせずに済んだことはな…

メアリー・アン・マシューズは言った: 夢見がちね。僕は言った: 例えば爪。髪。頼んでもいないのに伸び続けるものを、僕の体から生まれ続ける僕にとって必要かどうかわからないものを、どうやって止めることができる?僕が周囲に与える影響や、僕の中から沸…

メアリー・アン・マシューズは言った: 悲壮な様子ね。僕は言った: 僕は僕のために、僕の力を使う。僕が叶えたいことは僕が叶えるしかないし、誰も肩代わりはしてくれない。それは当たり前のことだし、そうあるべきこと。けれど僕は、そんな簡単な結論へたど…

メアリー・アン・マシューズは言った: 曖昧ね。僕は言った: 態度に表すことが何だって言うんだ。涙を流したら君は満足するかい?そんなもの、本当にただの儀式でしかないかも知れないのに。そんなことは誰も必要としていなくて、ただ自分一人がどう受け止め…

メアリー・アン・マシューズは言った: 夢の続きを。僕は言った: 真っ暗な部屋でモニタを見つめてる。他にひとつだけ、赤外線ヒーターの灯りだけが見える。モニタを見つめる僕の目に、薄青白い領域と、横に細く連なる文字列のような模様が映っている。白と、…

メアリー・アン・マシューズは言った: 深いところへ。僕は言った: そう、深いところへ。僕が自覚する、僕の一番深いところとはどこだろうか?それは他の誰かが認識する、僕の一番深いところと比べてどうだろうか。もっと深い?もっと浅い?そこまでたどり着…

メアリー・アン・マシューズは言った: どうかしてるわね。僕は言った: どうかしてるんだ。気が狂いそうだ、というのは、僕がまだ気が狂っていないなら、だけれど。どうだろう、この落ち着きのなさは。頭を引っかき回してるうちに、皮膚を全部めくり取ってし…

メアリー・アン・マシューズは言った: 幸せだなんて。僕は言った: 精神的な安寧が得られれば何だっていいと思えるさ。暖かな暖炉の前だって極寒の雪原だって、自分自身がどう感じているかが問題なのだから、いや、それは心頭滅却だとか感覚器を麻痺させると…

メアリー・アン・マシューズは言った: どういうことかしら。僕は言った: 体裁がいいとか悪いとか、裕福だとか惨めだとか、満足だとか後悔だとか、どちらかに属していることやそうでないことが幸せかどうかにつながるかと言えば、そうは思わない。僕は、常日…

メアリー・アン・マシューズは言った: 動機は何かしら。僕は言った: いたってシンプルだと思う。僕はどうやったら幸せに生きられるか考えている。と同時に、『どうやったら幸せに生きられるか』考えながら幸せに生きることがどれほど難しいか、も知っている…

メアリー・アン・マシューズは言った: 嘘だったのかしらね。僕は言った: 狼少年といえば有名な童話だけど、君はどう思うかな。彼はあれほど酷い結末を迎えなきゃならなかっただろうか。誰にも見捨てられて当然だろうか。彼がいつまでも嘘を付き続けることは…

メアリー・アン・マシューズは言った: 後悔することってあるかしら。僕は言った: 後悔しないことなんてあるのかい?

メアリー・アン・マシューズは言った: 生きがいは何かしら。僕は言った: ないよ。

メアリー・アン・マシューズは言った: よくしゃべること。僕は言った: 文字や文章を連ねるしかないからね。自分を表すのも表さないのも、ここでは文字しか意味がない。自分のことを話すにしても君のことを伝えるにしても、ここでは、文字しか意味がないんだ。

メアリー・アン・マシューズは言った: 大層なご身分ね。僕は言った: 彼女に言ったことは、自らへ戒めのために言ったのと同じことなんだ。

メアリー・アン・マシューズは言った: あなたも誰かを尊敬するのかしら。僕は言った: ヘレン・ケラーを知ってるかな。僕は彼女のような人間こそ尊敬に値すると考えている。いわゆる三重苦を乗り越えたことや、その後の福祉・政治活動を評価してのことじゃな…

メアリー・アン・マシューズは言った: どうして嘘なんて吐くのかしら?僕は言った: これからの僕が、君に対して不誠実な嘘を吐かないとは限らないだろう。それと同じように、今の僕が君に嘘を吐いていないとも限らない。それと同じように、その嘘が不誠実な…

メアリー・アン・マシューズは言った: 何を考えているのかしら。僕は言った: これほどひどいことはなかったかと、思い出の中をずうっと潜っている。メアリー・アン・マシューズは言った: ええ、それでどうなるのかしら。僕は言った: 今よりも悲惨な状況を生…

メアリー・アン・マシューズは言った: あなたの意見を聞かせて。僕は言った: 人生っていうのは、多分パズルのことだ。僕らはワン・ピースだ。一生をかけて自分の隣にしっくりくるピースを探すのかも知れない。それはもしかしたら足りないかも知れないし、ひ…