メアリー・アン・マシューズは言った: あなたも誰かを尊敬するのかしら。

僕は言った: ヘレン・ケラーを知ってるかな。僕は彼女のような人間こそ尊敬に値すると考えている。いわゆる三重苦を乗り越えたことや、その後の福祉・政治活動を評価してのことじゃない。アン・サリヴァンと出会うまでの数年の間、彼女が何もない世界で生き続けていたことについて、だ。

メアリー・アン・マシューズは言った: どういうことかしら。

僕は言った: 僕は誰かに依存することや、誰かに依存されることが嫌いだ。どんなに親しい友人や大切な恋人に懇願されても、僕は独りの時間を持たずにいられないだろう。こんなことを言えばきっとほら、街中で恋人と手をつないで歩くようなタイプの人間に、『部品がイカレてまともに動かなくなった情けない機械』を見るような目で見られるだろう。そう、「世界で一番愛してる」なんて死ぬまでに何人もの相手に平気な顔で伝えて、何の罪の意識も感じず何の自責の念も覚えずになんてことのない顔で先月とは違う相手とセックスしてるような、そんな連中にだ。ヘレン・ケラーは病に視力と聴力を奪われてからアン・サリヴァンに出会うまでの五年間、誰とも意志を疎通せずに生きていた。もちろん、選んでの生じゃあないかも知れない。彼女にはそんなことを辛いとは思えなかったのだろうし、誰かと通じ合うことだってわからなかったんだろう。でも生きてたんだ、生きてたんだよ。僕を『機能を忘れてどん詰まりになってる使えない機械』のように哀れむ連中は、ヘレン・ケラーを役立たずだと思うんだろうか。僕やヘレンのように他人とつながらなくても生きている状態の人間の数に対して、アンはあまりに少ない。差し伸べる手はあまりに少ない。それでも僕等は、生きてるんだ。

メアリー・アン・マシューズは言った: 悲しいことかしら。

僕は言った: 大笑いさ。メアリー・アン、僕は一度きりだって、連中のことを羨ましいなんてこれっぽっちも思ったことはないんだぜ。それだのに連中ときたら、まるで僕が連中を羨んで、その姿を見るだけで畏怖に陥ると考えてる。だからこそ、僕に手を差し伸べるつもりで哀れみの目を向けてる。違うんだ、メアリー・アン。僕が向けるのは畏怖じゃない、本当の哀れみだ。連中みたいな上っ面のものじゃない。誰かにすがらないと生きていけない、誰かにすがることを喜びだと思っていて、誰にもすがらない人間を不具だと思っている、独りを好む僕を不能者だと思っていて、愛情なんて理由がつけば足を開く自分を感情豊かで素晴らしい人間だと思ってる。なんて哀れなんだ、思わないかい。メアリー・アン、思わないかい。致命的なダメージを三つばかり乗り越えたヘレンを思うと、カスリ傷をこれ見よがしに情事のネタにする連中に寒気が走るよ。メアリー・アン、思わないかい。

メアリー・アン・マシューズは言った: 悲しいことね。

僕は言った: ああ、そうかもね。なんて悲しい、くだらない。